相手が会社を持っていて、財産が見えないとき。調べる手続と、開示を拒まれたときの進め方
- 相手の財産は、ご自身で集められるもの(登記、決算公告、同居中に見た源泉徴収票の写しなど)と、弁護士や裁判所を通じて集めるもの(弁護士会照会、調査嘱託、情報開示命令、文書提出命令)に分けて進めます。
- 2026年4月から、財産分与や婚姻費用の調停の段階でも、裁判所が相手に財産や収入の開示を命じられるようになりました(情報開示命令)。
- 会社名義の財産は直接は分けられません。ただし、相手が持つ株式の評価に映ります。会社の中にある財産を、見えないままにはしません。
- 調べても出てこないことはあります。そのときにどこで止めるかは、費用と一緒に決めます。
相手が会社や医院を経営していて、収入も財産も把握できない。通帳を見せてもらえない。決算書は会社のものだと言われる。相手が会社を持つ方からのご相談は、たいていここから始まります。財産分与は、何があるかが分からなければ数字になりません。このページでは、ご自身で集められるもの、弁護士が使う手続、調停や裁判で開示を拒まれたときの進め方を書きます。ご自身が会社をお持ちで、開示を求められている側の方への話は、後半に書きます。
ご自身で集められるもの
まず、手元と公開情報で分かるものを集めます。弁護士に頼む前に、ここまでは進められます。
| 知りたいこと | 集め方 |
|---|---|
| 相手の収入 | 源泉徴収票、確定申告書の控え、役員報酬が分かる給与明細。同居中に見たもの、家計のために渡されたものの写し |
| 不動産 | 法務局の登記事項証明書。自宅、事務所、心当たりの物件の所在が分かれば、誰でも取れます |
| 会社 | 会社の登記事項証明書(役員と資本金)。決算公告を出している会社なら、その内容 |
| 預貯金、証券 | 同居中の通帳の写し、郵便物の差出人(銀行、証券会社、保険会社) |
| 生活の水準 | 家計簿、クレジットカードの明細、旅行や車の購入の記録 |
同居中であれば、家計のために見せてもらった通帳や、届いた郵便物の差出人を控えておくだけで、後の手続の出発点が変わります。どの銀行に口座があるか、どの証券会社と取引があるかが分かれば、裁判所を通じた照会の宛先が決まるからです。
相手の持ち物を持ち出す、鍵の掛かった物を開ける、相手宛ての郵便物を開封する、相手のパスワードでログインする。こうしたことはしないでください。写しと控えで足ります。
弁護士が使う手続
ご自身で集められるものに限りが見えたら、弁護士が使える手続に進みます。使う場面と効き目が違うので、分けて書きます。
| 手続 | 使う場面 | 効き目と限界 |
|---|---|---|
| 弁護士会照会 | 調停や裁判の前後を問わず、弁護士が弁護士会を通じて金融機関や会社に照会します | 回答するかは照会先の判断で、応じない機関もあります |
| 調査嘱託 | 調停、審判、訴訟の中で、裁判所から金融機関、勤務先、会社に照会してもらいます | 裁判所からの照会です。照会先の銀行や支店の見当を付けてから申し出ます |
| 情報開示命令 | 財産分与、婚姻費用、養育費の調停と審判、離婚訴訟の中で、裁判所が相手に財産や収入の状況の開示を命じます。2026年4月1日に始まった制度です | 正当な理由なく開示しないとき、うその開示をしたときは、10万円以下の過料の対象です |
| 文書提出命令 | 調停、審判、訴訟の中で、相手が持つ決算書や通帳の提出を、裁判所に命じてもらいます | 家事調停と審判では、従わないと20万円以下の過料の対象です。通常の民事裁判と違い、提出しなかった文書の中身についてこちらの主張をそのまま認める扱いは、家事事件と離婚訴訟にはありません |
どれから使うかは、相手の財産の見当がどこまで付いているかと、手続がどの段階にあるかで決めます。
会社の中にある財産をどう見るか
相手が会社を経営している場合、個人の財産が少なく見えて、会社の中に財産が溜まっていることがあります。会社名義の預金や不動産は会社のものなので、財産分与で直接は分けません。けれども、相手が持つ株式の評価には、会社の純資産が映ります。会社に溜めた利益は、株式の評価額という形で分与の対象です。会社の決算書を手に入れれば、相手の財産の全体が見えてきます。
決算書は、相手の会社の株主なら、会社に閲覧を請求できます(会社法442条3項)。株主でない方は、調停や裁判の中で、裁判所を通じて提出を求めます。
役員報酬を下げる、別居の後に会社の利益を減らす、という動きが出ることもあります。従前の報酬や会社の利益の推移から、実際の収入を主張します。婚姻費用の場面での扱いは、婚姻費用・養育費のページに書きました。
開示を拒まれたとき
調停で財産の開示を求めても、相手が「ない」「会社のものだ」と答えるだけで進まないことがあります。資料を出さないまま「ない」と言うだけでは、その言い分は通りにくくなります。
拒まれたときの進め方は、四つあります。
- 情報開示命令を申し立てる。 2026年4月から、財産分与と婚姻費用、養育費の調停の中でも、裁判所が相手に開示を命じられるようになりました。正当な理由なく従わなければ、相手は過料の対象です。
- 相手を経由せずに資料を取る。 銀行や会社への調査嘱託と、相手が持つ文書の提出命令です。
- 分かっている資料から推計して主張する。 生活の水準、役員報酬の推移、決算公告、不動産の登記から財産の額を推計し、反証は相手に委ねます。
- 調停を終わらせ、裁判所に決めてもらう。 財産分与だけの調停なら審判に移り、離婚そのものが争いなら離婚訴訟に進みます。訴訟では、尋問で相手に直接答えさせる場面があります。
ご自身が会社をお持ちで、開示を求められている方へ
逆の側の方は、どこまで出すべきかで迷われます。個人名義の財産は、出さないままでいても、情報開示命令で開示を命じられることがあります。会社名義の財産は直接の対象でないと説明したうえで、株式の評価に要る資料(決算書)を出す方が、評価の争いをご自身が出した数字の上で進められます。出さないままだと、相手の推計で評価されかねません。何を出し、何を出さないかは、最初の面談で決めます。
正直に書いておきたいこと
調べても、出てこないことはあります。現金で持っている、海外に口座がある、第三者の名義にしている。こうしたものは、裁判所の手続でも届かないことがあります。そのときは、分かっている財産で分与を決めて終えるか、訴訟で尋問まで進めて相手に答えさせるかを、費用と一緒に決めます。財産分与の額が大きく変わる見込みがなければ、止める判断も正しい選択です。
調停調書や判決ができた後で払われないときは、強制執行の手続(財産開示、第三者からの情報取得)が使えます。養育費なら、勤務先を調べる手続もあります。
依頼すると、こう進みます
- 初回の面談で、分かっているものと見えないものを分け、財産の地図を描きます。どの銀行、どの会社に照会するかの当たりを、ここで付けます。
- 財産の調査です。登記と決算公告、弁護士会照会で集め、足りなければ調停の中で情報開示命令、調査嘱託、文書提出命令を使います。
- 交渉と調停です。集めた資料と推計で財産分与と婚姻費用を数字にし、相手に示します。
- 調停で止まるなら、審判や訴訟と尋問です。開示を拒んだ経過を含めて立証し、決着をつけます。
よくある問い
相手の会社の決算書は、どうすれば見られますか。
ご自身がその会社の株主なら、会社に閲覧を請求できます(会社法442条3項)。株主でない場合は、調停や裁判の中で、裁判所を通じて提出を求めます。同居中に見た決算書の写しがあれば、出発点になります。
相手が「会社のものだから分けない」と言います。本当ですか。
会社名義の財産を直接分けないのは、そのとおりです。ただし、相手が持つ株式の評価に会社の財産は映ります。会社に利益が溜まっていれば、株式の評価額として分与の対象になります。
調停で開示を拒まれています。どうなりますか。
2026年4月からは、調停の中で情報開示命令を申し立てられます。正当な理由なく従わなければ、相手は10万円以下の過料の対象です。裁判所を通じた照会や提出命令で資料を取る方法と、分かっている資料から推計して主張する方法もあります。調停で動かなければ、審判や訴訟に進みます。
費用
相手の財産を調べることだけを依頼される場合の手数料と、交渉・調停と訴訟の着手金と報酬金は、費用のページに数字で書いています。裁判所に納める費用と、登記情報の取得費用は、実費として別です。
お受けできない場合
相手方が当事務所の顧問先の会社の社長、役員、株主であるときは、お受けできません。相談の前に相手方のお名前と会社名を伺うのは、そのためです。
初回のご相談は無料です。フォームまたはお電話でお申し込みください。
